彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません
『そうですね……素敵な方ですね』
ひよりが梅木さんの孫に向けた言葉を思い出し、俺はわずかに眉を寄せた。
相手は、俺より遥かに年下だ。
それでも、“男”であることに変わりはない。
ひよりの目に、他の男が映る。
――正直、面白くなかった。
どこまで本気かはわからない。けれど、梅木さんはああ見えて強引なところがある。このまま話が妙な方向に進むのは、冗談じゃないと思った。
「……にしても」
思わず、小さく息が漏れる。
子どもか、俺は。
ひよりの言う通り、患者相手にあんな牽制めいたことを言うべきじゃなかったのはわかっている。
それでも、あの時は――
どうしても、黙って見ていられなかった。
梅木さんが退院してしまえば、しばらくひよりのいる病棟へ行く理由もなくなる。脳外の患者が入れば別だけど、それを待つのは、さすがに悠長すぎる。
……となると。
プライベートで動くしかない、か。
気づけば、コーヒーはほとんど空になっていた。
また、ひよりとコーヒーを飲みたい――
そんなことを、ふと思う。
昔、よく二人で飲んでいたブラックコーヒー。
あの頃は今よりずっと幼くて、ひよりがブラックを平然と飲んでいるのが、少し意外だったのを覚えている。
俺にとって、ブラックコーヒーはひよりとの思い出そのものだ。これを飲むたび、簡単に過去がよみがえる。
……なのに。
ひよりは、いつの間にかカフェオレになっていた。
それが、地味にショックだった。