彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません

 「柿谷先輩がひよりに詰め寄って、ひよりが後ろに下がった拍子にバランス崩して……そのまま落ちたの」

 頭の奥が鈍く疼く。

 記憶は曖昧だったけど、階段から落ちたことは覚えている。でも、その事故に瀬名先生が関係していたなんて。

 当時の感覚がかすかに蘇る。

 階段の手すり。
 一瞬、身体がふわっと浮く感覚。

 そこから先は、やっぱり曖昧だ。

 「……瀬名先生は?」

 ようやく出た声は、小さかった。

 真由ちゃんはゆっくり私を見る。

 「すぐ駆けつけたよ。顔色変えて」

 その一言だけで、胸が苦しくなる。

 「救急車にも一緒に乗って、病院にも毎日来てた」

 言葉が出ない。

 「ひよりが目を覚ますまで、ずっと」

 テーブルの木目がぼやけて見えた。

 「……私、覚えてない」

 「うん」

 「本当に、何も」

 真由ちゃんは静かに頷いた。

 「でも、ひよりが目を覚ました時……」

 真由ちゃんは少し苦笑する。
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