彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません
いいところだったのに
翌日の昼休み、私は職員食堂にいた。
白衣姿の医師やスクラブの看護師、リハビリスタッフに検査技師――昼休みらしく、食堂はさまざまな職種の職員で賑わっている。食器の触れ合う音と人の話し声が絶えず響いているのに、その賑やかさがどこか遠く感じられた。
空いている席を見つけて腰を下ろし、トレーの上の日替わり定食に視線を落とす。
味噌汁の湯気がゆらゆらと立ちのぼっている。
大好きなチキン南蛮定食を選んだのに、箸を持つ気になれない。
昨日、真由ちゃんから聞いたことが、まだ頭の中で整理できていなかった。
大学時代、瀬名先生と私は付き合っていたこと。
事故のあと、先生は毎日お見舞いに来てくれていたこと。
それなのに私は、先生のことだけを忘れていた。
やっと味噌汁をひと口飲んで、小さく息を吐く。
あれから一晩経っても、気持ちは少しも落ち着かなかった。
むしろ時間が経った分だけ、真由ちゃんの言葉の意味がじわじわと身体に沁み込んでくる。
――瀬名先輩、ひよりに一目惚れだったの。
――毎日来てたよ。“私の彼氏”ってことにして。
先生は、どんな気持ちで今まで私に会っていたんだろう。
ホテルで泣いていた私を見つけた時も。
デートに誘ってきた時も。
何気ない顔で「可愛い」と言ってきた時も。
全部、ただの軽口じゃなかったのかもしれない。