彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません
そう思ってしまうと、今までのやり取りのひとつひとつが急に重たく感じられる。
昔のことも、事故のことも、私が自分を忘れていることも。
それでも先生は、何も知らない顔をして、今の距離を少しずつ詰めてきたのだ。
先生のことを思い浮かべるだけで、昨日までとは違う苦しさがある。
そんなふうにぼんやりしていた時だった。
「ここ、空いてる?」
聞き慣れた低い声に、心臓が跳ねた。
反射的に顔を上げる。
そこには、定食を乗せたトレーを手にした瀬名先生が立っていた。
食堂内だから白衣は脱いでスクラブ姿。見慣れているはずなのに、今日はまともに直視するのが難しい。
「あ……はい」
なんとか頷くと、先生は向かいの席に腰を下ろした。
……落ち着かない。
心の整理もまだまともにできていないのに、まさかここで会うなんて思いもしていなかった。
梅木さんが退院したことで、先生が私たちの病棟に来ることはもうない。だから、こんなふうに偶然会うこともないだろうと思っていたのに。
先生はコップの水をひと口飲んでから、私のトレーに目を落とした。