月とスッポン  一生に一度と言わず
おーと左手を挙げれば
「そうですね。我々は専門家ではありませんので、根拠のない憶測を言うモノではありませんね」

少しがっかりした空気を纏った大河が微笑む。

「いや、素人なんだから、適当に妄想を膨らませていい加減な事言えばいいんじゃないですか?それをネットに公表するわけでもあるまいし」
「それもそうですね。ただの妄想ですから」

「妄想とは無責任なものでしたね」

自分に納得させるように大河が呟く。

「川を渡るに困ってたら、おっさん達がこれを使ってくれって亀石を持って来たとしたら、めっちゃ驚きますよね」
「驚きで言葉を失うと思います。元に戻して欲しいとお願いしても、この大きさですからね」

亀石の大きさを一緒に確認する。

「元に戻せって言われても、あの山の上ですしね」
「戻す労力と川を渡れない不便さを天秤にかけては大いに頭を悩ましたでしょうね」

当時のやり取りを妄想していく。

「お礼をしたくても、相手側の方が裕福で地位も名誉も全部持ってて」
「酒も女も、こちら側より良いモノを持っていて」

「お礼に渡せるものが何もない」
「巫女を舞わせようとも、彼方の方が花がある」

小さな笑いが大きくなっていく。

心なしか私たちの周りに人が集まっている気がする。

と言うより、私達がこの亀石を占領していた事に気がつく。
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