月とスッポン  一生に一度と言わず
聞き覚えのある声の主を見れば、どこからか湧いて出た大河が私の手を引き、電車に乗り込んだ。

「これ、指定。私、切符、持ってない」

いたずらが成功した子供のように喜んでいる。

「大丈夫です。指定分は購入済みですよ。さぁ、行きましょう」

そんな事ができるのか?
ブルジョアの裏技なのか?
っていうか何故いる?

頭の中で様々な疑問が湧いては消えていく。

「私を置いて出かけるなんて酷いじゃないですか!」

私を席に座らせての第一声がこれってどうなんだろうか?
というよりも絶対にそんな事を思っていない。

思っているなら、なんで有名コーヒーチェーン店のコーヒーを飲みながらそれを言うのだ。

しかも、これは「茜の分です」と私が愛飲するラテを手渡れた。

「今日も寒いですね」とまで言ってやがる。

到着まで1時間もある。ゆっくり聞こうじゃないか!

「私、今回の事誰にも言ってないんですけど。なんでいるんですか?」
「私と茜の間ではないですか」

少し、いや物凄く怖いんですけど。
食べ損ねたおにぎりを食べながら大河を睨みつける。
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