月とスッポン  一生に一度と言わず
挨拶を済ませ、囲みの中を覗き込めば、一体の石が祀られている。

「あの石が御神体です」
「あれが」
と呟けば、いつもの講座が始まる。

「《御神体は五十鈴川であり、河川の氾濫が多かった五十鈴川の治水鎮守の神様です。
鎌倉時代は対岸に祀られており、この神こそ天照大御神の前身とされていたそうです。
所管社でありながら別宮と同等の祭祀が捧げられる特別な神ですが、その理由は不明ですが祭神の瀧祭大神は、神宮の造営以前からこの地に鎮座していたそうで、瀧祭大神こそが神宮の本来の祭神との説があるそうです》」

元々いた神様。
追いやられたのか?それとも熱烈歓迎でここに鎮座しているのか?

居場所を取られたと考えるよりも一緒にいてくれる人が増えたと考えた方が幸せだ。

「“おとりつぎさん”と呼ばれているそうですよ」
「ん?お取り寄せ?」
「おとりつぎです。
正宮に詣でる前に瀧祭神に参拝すると、こっそり天照大御神に願い事を取り次いでくれるそうです」

目を細め囲みの中の御神体をじっくりと見ていれば、口を手で隠しつつ、小さな声で囁いた。

思わず身震いをする。
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