月とスッポン  一生に一度と言わず
一段づつ丁寧に降りていく。
私の視線は荒祭宮しか入っていない。

大河に腕を掴まれ、体勢を崩す。
「危ない」と文句を言うも、「そこの石は踏まないでください」を注意を受ける。

言われた石を見れば不自然に飛び出た石が目に入る。

「これは“踏まぬ石”と言われています。
《その割れ目が「天」という文字に見える事から空から降ってきた石と伝わり、踏んではいけない石だそうです。実際は地球に存在する堆積岩なのですが、踏むと災いが起きるそうです》」

科学的根拠がないものは一切信じません。

そんな風貌の大河が、迷信を信じているかと思うと、沸々を笑いが込み上げてくる。

“踏まぬ石”を踏みフリをすれば、「ダメです」と腕を引かれ、大河に寄りかかる体勢となる。

ふざけ過ぎたと体勢を戻そうとしても、しっかりと大河に手を繋がれている。

「迷信を信じるタイプだとは思いませんでした」

荒祭宮は目の前。
どうせすぐに手を離すのだからをそのまま放置しよう。
どうせすぐに離すのだから。

「初めての初めての伊勢参りなのですから、完璧なものにしたいと思いまして」

少し照れくさそいに言う大河が、ほんの少しだけ可愛くみえる。

「確かに。でも、少しぐらいやり残した方が“また来よう”って思うのも事実で。悩ましい問題ですね」

最後の一段を降り、荒祭宮を階段の下から見上げる。
大河と繋いだ手を離し、深くお辞儀をしてから階段を登る。

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