月とスッポン  一生に一度と言わず
恵まれてはいない環境だったけど、その中でもまだマシな環境で。

周りが手を差し伸べてくれたお陰で、これ以上、下に落ちることもなく「自分たちは恵まれている方なんだ」と一緒に歩んできたはずの翔空が私よりも5歩も10歩も先に歩いている。

「立派になったな」と思う保護者の気持ちと「置いて行かれている」という同志の気持ちが混ざり合い気持ち悪い。

猿田彦神社に着くと、「ママ、ハンカチ」と手水舎で清め手を拭いた龍平がペコリと鳥居の前で頭を下げる。

可愛い。

「あかねちゃんも」と呼ばれ、急いで身を清め、鳥居を潜る。手を繋ぎ、巫女さん達に元気よく挨拶をする。

「龍平君」と名前で呼ばれているのを聞けば、頻繁に足を運んでいるのがわかる。

拝殿に向かい元気よく「こんにちわ」と挨拶をする。
その愛らしい姿に、硬くなりかけた心が和ぐ。

「この後の予定は?」

翔空の問いに、思わず大河を見ればなんだか寂しそうな顔をしている。気がする。

時間を見れば、家に帰るにはちょうど良い時間だと「帰ります」と素直に答えた。

「なら駅まで送ってってやるよ」
「かえっちゃうの?」

終わりを告げられた悲しげな3歳児と同じ顔をしている四捨五入で30歳児。

「えー、もっとあそびたい」
と駄々をこねる龍平に便乗しようとしないでください。

「茜は、今から近鉄特急で名古屋まで行って、その後新幹線に乗るんだよ」
「ビスタEXにのるの?しゅんかんせんは?のぞみ?N700?りゅうくんも乗りたいぃ」

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