月とスッポン  一生に一度と言わず
運転する翔空と助手席に座る大河が海について話している声が聞こえる。
だけど、後ろに座っている私までははっきりと聞こえない。

気にはなるが、後で大河に聞けばいいと諦めて流れていく街並みに目を向ける。

猿田彦神社導きの神様で、翔空は『この道から踏み外さない様に、子供達が正しい道を歩んでいける様に』と足繁く通っている。

守るべきモノを手にいれ、この地に根を張りしっかりと前を見つめ生きている。
海も最愛を手に入れて、新たなる一歩を歩み出す準備を嬉々と進めている。

そんな中、私だけが異常な日々を過ごしている。
そろそろ私も現実世界に戻る時が来たのかもしれない。

タイムリミットはきっと海の結婚式だ。
でも、大河と比叡山へ行く約束をしてしまった。
なかった事にできないかと思考を巡らせていれば、あっという間に伊勢市駅へと到着する。

「また連絡する!」と立ち去る翔空に手を振り、駅へと向かい歩き始める。

「チケットを買ってきますので、茜はあちらでコーヒーを買ってきてくれませんか?」

効率よく二手に分かれましょう。
そう言う大河に異論はなく素直に従う。

電車のチケット代に、タクシー代、ランチ代は大河が支払っている。
それに似合うモノをと1番高そうなブルーマウンテンのコーヒーと本日のコーヒーを注文して出来上がるのを待っているとふっと思い出した。

「私、新幹線のチケットどこにしまった?」と

鞄と財布と、コートのポケットを漁る。

焦る気持ちを抑えながら、笑顔でコーヒーを受け取り、店を出て、ここにきてやってしまったと焦りながらすぐに捜索を開始する。

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