月とスッポン  一生に一度と言わず
大河が何かほざいているが、聞かなかった事にして大きく息を吸って清い空気を体内に取り込もう。

すでに参拝を終えた人とすれ違い、お互いに会釈をしたり挨拶をしたり。

いつの間にかしなくなった些細な事が、当たり前にここにあって、初めての場所なのになんだか“帰ってきたんだ”と温かい気持ちになる。


正宮でようやく来れた事への感謝と挨拶を済ませる。

顔を上げると室内を隠す白い布が風で揺れ、少しだけ中を見る事が出来た。

思わず大河の腕を掴む。
通常見れない御姿に言葉を失う。

すぐに風は止み、同じように白い布の奥を見入っていた人達が動き出す。

大河の顔を見上げれば、大河も嬉しそうに微笑んでいた。

見せて頂きありがとうございます。

頭を深く下げ、正宮を出る。

「御幌が揺れる時は神様の合図とかお通りになられたとか言われているそうですよ」
「なにそれ!すんごい嬉しい!」
思わず喜びに溢れる私に、微笑みながら大河が補足する。

「神様も茜が来た事を歓迎してくれているんですよ」
「ヤバっ。神に愛された女」

なんちゃって。
自分で言って恥ずかしくなる。

「神だけではなく」

しめ縄で囲われた石の方へ大河を引っ張り「これは?」と誤魔化す。
大河が何かを言おうとしたけれど、話の続きだったら聞きたくない。恥ずかしすぎる。

「三つ石ですね」
「なんかのパワースポット?」
「儀式をする場所の目印だそうです」

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