月とスッポン  一生に一度と言わず
それ以上なにも言わない大河に、不自然さを感じる。

「それだけ?」

首を傾げる私に釣られるように大河も首を傾げる。

「いつもなら1聞いて100答えるのにそれだけ?」

しまった!
“待て”をしていた大型犬に“よし”と許可をしてしまった。

「《今から千数百年も前、外宮創建当時、あちらの正宮と、こちらの多賀野宮との間には、かつて豊川という大きな川が流れていました。
長い年月、様々な要因が重なり小さな小川や溝へと変化し、池や勾玉池は豊川の名残だと言われています。式年遷宮の前夜に行われる御装束神宝や奉仕員を祓い清める儀式“河原大祓”はその豊川のほとりで行われていました。
流れが失われた今でも伝統として連綿と引き継が豊川の河岸であることを示している目印こそが三ツ石だそうです》」
「へー」

「目印ですので、ここにはパワーはありませんが、ここから祈る事にはなんらかのパワーがあるかもしれませんね」
「ほー」

ここに川があったとして、三つ石越しに挨拶をしておく。

「パワーといえば、あちらの“亀石”の方があるかもしれません」

大河に連れられ、亀の頭がわかる位置へと移動する。

「高倉山古墳の石室の一部と言われているのが、この亀石です」
「古墳?」
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