月とスッポン  一生に一度と言わず
今度は大河が驚きの声を上げる。

「嘘偽りなく、思った事を言ったのですが」
「無意識」

「どの辺りが不快に感じたのですか?」
「そっちは高学歴で高収入。見た目だっていいわけじゃん。そんな人間と比べるなんておこがましいとは思うよ。思うけど、そこまでバカじゃない」

3歳児に靴が上手に履けるたねって褒めるように褒められても嬉しくはない、と付け加えれば
「そんなつもりはなかったのですが」と見えない耳が垂れる。

「会話をしたければ、とりあえず相手を褒めろと言われまして」
「どうせ、慶太郎にでしょ。あいつは得意そうだもんね」

大河が小さく頷いて同意する。

「いじりにもなんらかのハラスメントにもならない絶妙なポイントを褒めそう。で、相手は喜んで尻尾を振りそう」
「そうなんです。会話は相手に話をさせる事が重要だと言われました」

「それもどうかと思うけど、それがあいつの常套手段なんだろうね」
「よくわかりますね。褒めて欲しいポイントを言えば相手は話し出すと言われました。」

「それを私で試さないで下さい」

すみませんと素直に謝罪されれば許さない訳にはいかない。

大きくため息をつく。

「褒めるなんて、成長を促す時です。上の人間が下の人間を褒めるんですよ」
「茜は褒めないのですか?」
「仕事でですか?ほぼないですね。褒める必要がないので。私みたいな下の人間が上の人間を褒めるのはただのゴマスリです」



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