月とスッポン  一生に一度と言わず
車に乗り込めば、嬉しそうに大河が車の説明を始める。

エンジンをかけるには、席の調節するには、
「茜の車よりもアクセルが重たいので、少し強めに踏んでください」
など3分間の操縦方法の説明会となる。

人の車など乗れるか!
私が動かす車は、愛車と店の車だけだ!


と出かかる言葉をグッと飲み込む。

「ただ説明しているだけです。運転しますか?」

なんて言われては堪らない。
大河の思う壺に入ってはならない。


そう心に誓った。はず。
なんて弱い誓いだ。


彩華さんに新年の挨拶を済ます。

施設には様々な人が来るためか、部屋でゆっくりととはいかず、開放感溢れるロビーで大勢での対面となった。
知らない人から挨拶されても、「いろんな人が来るから、誰かの家族だろう」と住居者の心の負担が少なく、見るスタッフも最小限で賄え、一石二鳥だそうだ。

無事に挨拶を終えた海とも合流して、
「さぁ、帰ろう」と外に出る。

「食べ過ぎたので、私は歩いて戻りますね」

泰臣さんが歩き出す。

「私も」と歩き出そうとすれば、大河に阻まれた。

「大変申し訳ないのですが、アルコールを摂取してしまったので、茜が運転してください」
「はぁ?」

思わず声に出る。

「慶太郎が運転すれば?」
「無理。俺も車で来てるから、無理でーす」

海を見れば、首を横に振っている。
だろうな。運転免許を取得していない海に運転しろと言うわけにはいかない。

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