「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
「……疲れた」

 情けなく呟くと、矢沢は眉尻を落として俺の肩をポンッと叩いた。

「美月ちゃんに癒してもらえ」

 美月については、憲明さんの娘で、少し前に偶然再会して、捻挫の一件から同居するようになり、感情が安定していて芯が強いところに惹かれたとだけ伝えてある。

 いくら気心許せる友人とはいえ契約結婚とは口が裂けても言えない。俺だけではなく美月が関わっているし。

「美月に、弱っている姿なんて見せられない」

「あー、そういうタイプね。俺は逆に甘えちゃう」

 恥ずかしげもなく語尾にハートマークがつく口調で言うあたり、本気で女性の前で上手に甘えていそうだ。

「想像したくないな」

「失礼極まりないな。だったら肉を食って元気になれ」

 矢沢の皿の和牛ランプはもう消えそうだ。俺の方はそのままの形で残っている。

 せっかくの料理が冷める前に食べようと意識を向けただけで、さっきまで全身を循環していた鬱々とした気分が和らいだ。
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