「君を絶対愛さない」と言ったクールな警視正に滾る愛を刻まれました
 恋愛結婚のように、好き合っている者同士であれば踏んでいく段階を私たちもなぞっていくはずだからと、まったく気にかけていなかった。

 それに私は子どもがほしい、家族を作りたいと訴えていたから、こちらの望みは巧さんに伝わっていると悠長に構えていた。

 様々な事情から子どもを望まない人だって世の中にはいるのに、どうして私は最初に確認しなかったのか。

 足が鉛のように重たい。それでもここで、ぼうっと突っ立っているわけにもいかない。

 ふらふらと、ようやく歩き出した時だった。

「美月」と声がして、心臓に氷を当てられたかのように冷やりとする。矢沢さんの時のように、声だけで誰なのか分かった。

 立ち止まりたくなくて、空耳だと言い聞かせて前を進む。しかし後ろから肩をポンッと叩かれ、逃げ切れなかった。

 振り向くと陽平が困ったような笑みを浮かべて「久しぶり」と言う。

 口を閉ざしたままでいると、陽平は気まずそうに視線を宙に泳がせた。

「俺が抜けて、困ったことはない?」

 あるとすれば、後任の長屋さんは仕事が早すぎて私たちの対応が追い付かないことくらいだ。

 ゆるゆると首を横に振る。
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