結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

小話 夢

 幕間1 八木沢さん視点のお話
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 月曜の朝、僕は彼女の夢を見なかった。
 昨日も今日も、夢を見なかったことに安堵している。やはり、あれは悪夢と呼ぶべきだろう。
 夢の途中で目覚めて、「これが現実ならいいのに」と思いながら、夢の残滓を振り払って仕事に出かける。それが自分の日常だった。

 昨日は、寝すぎたのだと思ったくらいに心地よく目が覚めた。先に起きていた和咲さんに「まだ六時前です」と言われて驚いたくらいだ。
 和咲さんが隣にいてくれるから、きっと僕はもう「彼女」の夢を見ない。

 和咲さんはまだ隣で眠っている。
 寝顔が可愛くて、つい頬に触れてしまった。気づいた彼女が目を開いて僕を見る。その瞬間、花がほころぶように笑った。可愛すぎる。

「おはよう」
「おはようございます。すみません、私、結局眠ってしまって......」

 旅行を終えても離れがたくて、十五階の自宅へ連れていった。
 夕飯を終えて夜になり、一階へ帰ろうとした彼女をひきとめたのは僕のほうだった。

「私がいて大丈夫でしたか? 眠れました?」
「とても良く」
「よかった!」

 無邪気に笑う彼女が可愛い。また歯止めがきかなくなる。
 唇に触れたら、恥ずかしそうにしてるのも可愛い。拗ねる表情も可愛い。髪を揺らして乱れる姿も可愛い。
 柔らかくて温かい彼女。髪の一筋から爪の先まで、彼女の全てが愛おしい。
 彼女が他の誰かを選ぶ日が来たら、今度こそ自分は耐えられないと思う。
 だから触れずにいようと思っていたのに、自制できなかった。

 分別ある大人なのかと思ったら、少女のようで、僕は彼女に振り回されっぱなしだ。
 心が動くことなんて、もうないと思っていたのに。

 本当は寂しかったのに、強がって早く大人になってしまった彼女。
 脆いのに、泣き方も知らない。

 いずれこうなる、と予感めいたものはあった。だが、これが恋情だとも思っていなかった。
 自分の知る恋愛は、例えるなら炎だから、穏やかな木陰にいるような気持ちは初めてで、「これも恋愛感情なのか」と理解するまで時間がかかった。

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