結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

 あ、これはこのまま、ベッドになだれこむパターン……夜にはまだ早い。
 そう思って逃げようとした。でも捕まって、リビングのソファに押し倒される。
 この前、酔って帰った夜もそうだったけれど、箍が外れている気がする。でも私も抗えなくて、結局夕飯が遅くなった。


 夕飯のあと、八木沢さんが突然、「手を出してください」と言った。
 不思議に思いつつ両手を差し出すと、彼が私の右手をとって、手のひらに一枚のカードキーを載せた。

「僕の家の合鍵です。リストから外した食器はうちに置くので、使いたくなったら和咲さんが十五階に取りに来てくださいね」
「これじゃまるで……」

 ……特別扱いされてるみたい。

 こんなこと、予想もしていなかった。驚きすぎて、しばらく声が出なかった。
 お互いの時間と空間を尊重するという、当初の条件から逸脱している。
 信頼されたのが嬉しい。
「多くは望まないから、ただ一番近くにいてほしい」と思っていたはずなのに、嬉しくて、それ以上を求めてしまいそうな自分がいる。

 拠り所にしていた存在を失ったときの、耐えがたい胸の痛み。喪失のあとにも続く、空虚な人生。

 それがとても怖いから、約束なんかなくていい。そう思っていたのに。


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