結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

 私が部屋を飛び出してエントランスに着いたとき、すでにそこには誰もいなかった。急いでマンションの前の道に出る。上着を着てこなかったから戸外は寒くて震えた。乾いて冷たい冬の風が、肌に刺さるようだった。

 ここは見通しがいいから、と道路を見渡したら、彼女がゆっくり歩いているのが見えた。
 足首が細くて、高いヒールが似合っている。歩く姿勢まで洗練されていた。

「桂先生!」
「あれ? えーと、戸樫さん! 偶然ね!」
「このマンションに住んでて……」
「へえ……?」

 息を整えながら、自分の後ろに建っているマンションを指さしたから、彼女が首を傾げて考える仕草をした。カルテの記憶を辿ったのか「そういえば101号室って書いてあったような? 住所までは見てなかったわ」と呟いて笑った。

「八木沢さんに会いに来たんですよね? もう少し待ったら戻ってくるので……」

 私がそう言いかけると、桂先生が微笑みを消した。警戒するような表情すら美しい。

「どうして……私が彼に会いに来たって、あなたにわかるの?」

 実はモニターで見ていました、なんて言いづらい。
 少ししか走ってないのに動悸が激しい。手が震えるのはきっと寒いから。


< 174 / 264 >

この作品をシェア

pagetop