結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

 食後のコーヒーを飲み終わる頃には店内も混み合ってきた。そろそろお会計かなと伝票に手を伸ばしたら、気づいた彼に先に取られてしまった。私が払います、と言いたかったが、話題をそらすように彼から質問が飛んできた。

「必要なのでおたずねしますが、和咲さんの本籍地はどこですか?」
「江東区です。祖父母宅はもうありませんが、本籍はそのままにしてあります」
「なるほど。僕は鎌倉市です」
「そうなんですね」

 おそらく、おじい様が住んでいたという「鎌倉の本宅」のことだろう。相槌を打ったが、彼がなぜこんな話を始めたのか、私には全くわからない。

「どうします?」
「何がですか?」
「婚姻届を出す際の本籍です。どこにしましょう?」
「婚姻届……?」

 さっきプロポーズされて承諾したのだから、婚姻届に記載する内容についての相談は別に変じゃない。変じゃないのに現実味がない。現実味がなさすぎて、聞き返してしまった。
 婚姻届を出すことで、新戸籍が作られる。新しい本籍は、二人で決めたいらしい。
 ちなみに結婚することを今でも「入籍」と言ったりするが、民法改正前の家制度の名残。昔は、女性が結婚すると、相手の家の戸籍に入っていた。言葉の意味は時代によって変化するものだし、意味が通じるので使う人は多い。


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