結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

「今日のお夕飯、どうします?」
「昨日、抜けた穴埋めをしないといけないので、今日は遅くなると思います。先に寝てください。すみません」

 じゃあ、今夜は一人か。慌ただしいのは仕方ない。
 結婚休暇は後日改めて取得して、新婚旅行へ行こうと話している。
 八木沢家への挨拶は、先方の都合で再来週になった。現在、義母はご友人と海外旅行中らしい。

「今週末は指輪を買いに行きましょう」
「嬉しいです!」

 素材や色の希望、デザインはどんなものがいいかなど、会話が幸せすぎて、私はずっと笑っていたと思う。ちょっと浮かれすぎかもしれない……。

「では、行きたくないですが、仕事に行ってきます」

 玄関先で背伸びをして、彼の頬にキスをした。
 微かに触れるだけのキスはくすぐったかったようで、彼が楽しそうに笑う。彼が笑うと幸せな気持ちになる。笑い合っていると、離れがたくなってつい腕を引っ張ってしまった。

「槙木がいつも、『一秒でも早く家に帰りたい』と言っていた気持ちを、いま正確に理解しました……なるべく早く帰ります。連絡しますね」
「はい! 行ってらっしゃいませ!」

 八木沢さんが出て行って、玄関のドアが閉まると急に家の中がしんとした。
 さみしくなってドアを開いて追いかけて、エレベーターの扉が閉まるまで手を振り続けた。


< 231 / 264 >

この作品をシェア

pagetop