結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
いつも電車で移動するから、皇居の南側を車で走るのは初めてだった。タクシーの窓から、あれが霞ヶ関かあと眺めながら、一番疑問だったことを聞いた。
「あの……どうして来てくれたんですか……?」
「理由を書いていなかったから、です」
「理由?」
「あなたから夕食を一緒にと誘ってくれたのに、キャンセルしましたよね」
「はい、すみません」
「いつもなら律儀にキャンセルの理由を書くのに、今日は書いてなかったからです。もしかして……と思って」
日本橋の会社まで行ったが、私はすでに退勤したあとだった。受付に来た社員は私の知り合いだったらしく、「近くのファミレスにいるはずだ」と場所を教えてもらったそうだ。「ショートカットの凛々しいお嬢さん」とのことなので、多分それは永遠子だろう。
そういえばあれから全く連絡をとっていなかった。スマホを取り出すと、安否を心配するメッセージがいくつも届いていたから、「大丈夫、ありがとう」と返事をした。
永遠子にも八木沢さんにも、結局迷惑をかけて申し訳ない。
「お仕事が忙しいのに、ごめんなさい。無理しないでください。自分を優先して、無理に相手に合わせない約束のはずですよね」
「無理してないです」
八木沢さんが体を傾けて、覗き込むように見つめてくる。薄暗いタクシーの車内だからか、愁いのある表情に見えて心臓がぎゅっと苦しくなった。