結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

「心配させてください。頼りないと思いますが、僕を……もっと頼ってください」
「ええー! 頼りがいありますよ! さっきも真臣をひょいっと」
 
 指でつまんで、ぽいっと投げ捨てる仕草をしたら、八木沢さんが面白そうに笑った。

「来てくれて嬉しかったです。オレの女に手を出すなって言ってくれて嬉しかったです」
「いや、そんな台詞は言ってなぃ……」
「八木沢さんが私の彼氏で良かったです。これからはもっと頼ります」
「……はい、そうしてくださいね」

 いつも通り優しく笑うから、私だけ慌てているみたいで恥ずかしい。何を言っていいかわからずもじもじしていたら、あっという間に半蔵門も過ぎて、新宿通りに入っていた。

 家に帰るとほっとする。私たちの家。
 おやすみなさいと挨拶をして、101号室の扉を開く。
 視線を感じて顔をあげると、八木沢さんがまだエレベーターホールにいたのでもう一度お礼を言った。

「ありがとうございました。本当は、とても怖かったので……助かり……まし、た……」

 言い終える前に目が痛くなった。泣きたくないのに。
 家に帰ってきて、気が緩んでしまったに違いない。下を向いたら、滴がぽたぽたと地面に落ちた。
 軽快な音がしたから、エレベーターが一階に到着したんだろう。
 でも、八木沢さんはそれに乗らず、101号室のほうへ歩いてくる。

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