結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
頬に彼の唇が触れたのは、私が目を閉じるより前だったと思う。
親愛のような、そうでないような。
唇の端にもキスされて、心臓がとまりそうになった。
「あ、あの……んっ……!」
問いかけは塞がれたけど、触れるだけのキスは優しかった。唇と、首と耳にたくさん優しいキスをされた。それだけで心臓が破れそうなほど早くなる。
どうしよう、気持ちいい。もっともっと触れて欲しい。
腰に手を回されて、背中がぞくぞくした。足に力が入らなくなって壁にもたれたら、ちょうどスイッチに当たったらしく、廊下の灯りが点いて我に返った。
「八木沢さんっ……いま、いま……」
「すみません、僕なんかが触れてはいけないのに」
謝って逃げようとしたから、思い切り彼のネイビーのジャケットを引っ張った。破れそうな勢いだったけど気にせず掴んだ。
「待って! い、いやじゃなかったので大丈夫です! 謝らないでください!」
「……すみません」
謝らないでと言ったのに謝るから、困らせてしまった気持ちになって慌てた。
「疲れましたね! もう寝ます!」
「……そうですね、疲れましたよね。週末……温泉でも行きましょうか」
「行きます!」
「ちゃんと、ふた部屋とりますので」
「え……?」
「え?」
「いえ、ありがとうございます! よろしくお願いします!」
私がなんで? という顔をしたので、八木沢さんもなぜ? という表情になっていた。
期待した! 私、一瞬期待してしまった! うわあああああああ恥ずかしい!