結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

一番近くにいてほしい


 週末の箱根は渋滞していた。
 山の麓である箱根湯本(はこねゆもと)から、山の上にある芦ノ湖(あしのこ)までのカーブが続く峠道。
 車窓には、真夏の陽光を反射する濃い緑が広がっていた。秋の紅葉の時期は、もっと車が多いらしい。

「疲れてないですか?」
「全然! 楽しいです!」

 予定より時間がかかっているけれど、全く気にならない。隣に八木沢さんがいてくれて、たくさんお話を聞かせてもらえて、それだけで楽しい。
 東名高速道路で休憩のために寄ったサービスエリアですらはしゃいでいた。子供っぽいと呆れられたかもしれないが、八木沢さんはいつも通り、「楽しそうで良かったです」と穏和に笑っていた。

 そう、八木沢さんはいつも通りなのだ。相変わらず優しい。
 一方の私は、今夜の宿泊場所の件を思い出すたびに、緊張するというのに。

 二部屋とりますと言ってくれたが、八木沢さんがいつも行く強羅(ごうら)の旅館はすでに満室で、予約ができなかったそう。それを聞きつけた槙木さんが「寝室がふたつある部屋にすればいいじゃん。それなら東梧が安心するんでしょ?」と言いだし、結果、某高級ホテルのスイートルームに泊まることになった。

 宿泊料金が、私の月収を軽く超えている。情けないが、とても手が出せないと思ったので「払えません」と白状したら、「僕の都合なので、和咲さんは払わなくていいです。たまには甘えてください」と言われてしまった。ずっと甘えている気がする。

 どうやったら恩返しできるかわからないので、とりあえず八木沢さんが困っていたら必ず力になろうと思った。衣食住、全然困ってなさそうだけれど。


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