結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~
部屋に戻ってきた湯上りの八木沢さんは、もう眠いのか怠そうで、緩慢にソファに座るだけの動作すら艶っぽく見える。リビングルームでお茶を淹れてから寝ようと思い、お湯を沸かしながら話しかけた。
「今日は運転お疲れ様でした。明日もよろしくお願いします」
「何度も箱根には来ていますが、一人では美術館をまわったりしないので、明日が楽しみです」
明日は強羅方面へ行き、美術館や博物館を見て回る予定だ。
毎日深夜まで残業が当たり前の繁忙期に、急に逃げ出したくなって、ふらりと一人で温泉に来たのをきっかけに、忙しくなると何度か箱根に来ているそう。
お茶を淹れて私も向かいのソファに座った。ついそのまま箱根湯本にあるホテルや旅館、土産物屋の話などを聞いていたら、二十三時を過ぎていた。
普段なら、八木沢さんがそろそろ帰宅する時間。
「旅行先では、夜の時間の流れがゆっくりですね」
「そうですね。都内ならまだ終電前です。明日の朝は自然に起きるまで、ゆっくり寝坊を楽しみましょうか。……といっても、多分僕は起きてしまいますが」
寝起きの八木沢さんってどんな感じなんだろう。
朝、エントランスで会うときは、きちんと整った身なりだから、私みたいに朝に弱くて毎朝慌てたりしてないんだろうな。
私は寝つきが悪いから、きっと八木沢さんは先に寝てしまうだろう。
ごく自然に、いつものように、「おやすみなさい」と挨拶をして、それぞれの寝室へ戻った。