結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

 でも、ベッドにもぐり込んでも、すぐには眠れそうになかった。
 あの隙のない八木沢さんの寝顔が見てみたい。無防備な姿を見てみたい。今まで知り得なかった顔を見てみたい。勝手に想像しただけで、緊張してきた。

 だめ、無理。全然、眠れない。
 さっきはお茶を淹れたけど、まだコーヒーや紅茶もあったよね、と思いつつリビングへの扉を開いた。

 真っ暗だと思っていたら、フットライトだけが点いていて、寝室に行ったはずの八木沢さんがソファに座っていた。彼が私に気づくと、大きなため息をついたので、とっさに謝った。

「ごめんなさい! 私のせいで眠れないですよね」
「そう、眠れないんです。大丈夫だと思っていたのですが、こんなに……意識してしまうとは」
「意識……?」
「あなたが、近くにいると思うと」

 そこまで言いかけて、彼は手を口元に当てて黙ってしまった。その続きを言って欲しい。そうしたら私はためらいなく応えると思う。

「いえ、なんでもないです。すみません。僕は車で寝ます。それなら、和咲さんが一人で気兼ねなく……」

「行かないでください!」

 八木沢さんが立ち上がったから、本当にどこかに行ってしまいそうで、とっさに呼び止めてしまった。暗がりでもよくわかる。信じられないものを見たような驚いた顔。

「一人は寂しいです。ここにいて欲しいです……」

 沈黙が痛い。新宿とは全然違う。部屋が静かすぎて、耳がきんとする。
 衣擦れの音すら卑猥な気がして、身動きが出来ない。


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