失くしたあなたの物語、ここにあります
 六坂神社を逃げるように出ると、メインストリートを後戻りした。そそくさと歩く沙代子のあとを、天草さんは無言でついてくる。

 彼の初恋相手だって言われたわけでもないのに、どうして先走って否定しちゃったんだろう。むしろ、否定したことで、誤解したことがわかってしまっただろう。気まずくて顔を合わせられない。

「葵さん、あのさ……」

 まろう堂につながる道を曲がったところで、天草さんが声をかけてくる。

 何か言われる前に言わなきゃいけない。そうしないといけないような焦りがあって、沙代子は思い切って振り返る。

「なんか……、勘違いしちゃった。ごめんね」
「勘違いって」

 思い詰めるような目をしていた彼は、拍子抜けしたのか、あきれ顔をする。

「全然、役に立てなかったね」
「そんなことないよ」

 情けなくなってそう言うと、天草さんは首を振る。彼の優しさに、自分はいつも甘えてばかりだ。

「じゃあ、もう行くね。これからは私のためにまろう堂を閉めたりしなくても大丈夫だから」
「葵さんのためってわけじゃないよ」

 立ち去ろうとする沙代子を引き止めるように彼はきっぱりと言う。

「俺は小6の夏休みに、恋岩で葵さんに会ってる。それは勘違いでもなんでもない」
「そんなのわからない」

 名乗りあったわけじゃない。あの少年が天草さんだという確証はどこにもない。それは彼にも言えることだ。
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