失くしたあなたの物語、ここにあります
***


「かわいいじゃん」

 すべての始まりは、藤井海のそのひとことだった。

 海はクラスメイトだったが、特別親しい友人ではなかった。どちらかというと、うららはおとなしく、やんちゃな海とは相容れなかった。

 海に新しい彼女ができたのは、三年生になってから。海にとって、二番目に付き合った彼女だったらしい。名前は確か、(あい)ちゃん。

 三年の冬休みに入る前、それは起きた。

 愛ちゃんが、海の兄である渚さんとうららが載ってると言って、『ミックス』を持ってきた。帰ろうと思っていたうららは海に引き止められて、教室から出るに出られなくなってしまった。

 仕方なく、うららは友だちの真樹(まき)と一緒に教室に残った。それでもうららはまだ、祖母のカフェが載る雑誌だからと、好意的な気持ちでいた。

 どうせ、クラスメイトの写真なんてすぐに関心がなくなるだろう。みんながカフェに気づいてくれたら、『おばあちゃんのお店なんだよ。みんなで来てね』って宣伝できたらいいとまで思っていた。

「海のお兄さん、めちゃくちゃイケメンだね」

 誰かが最初にそう言った。美容院を紹介するページで男の人がカットモデルになっているお店は一つだけだった。

 あの男の人、海のお兄さんだったんだ。全然似てない。優しそうな人だなって、うららは思っただけだった。

「これ、本当に綿矢さん? 全然違うね」

 また違う誰かが、ゆるくパーマをかけたおろし髪のうららの写真を指差した。いつも学校ではストレートヘアを後ろで一つに結んでいる。自分でも全然違うって自覚はあった。
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