失くしたあなたの物語、ここにあります



「この間、渚さんが農園に来てくれたとき、まだ大学時代の彼女さんと付き合ってるんですか? って聞いたんですよ」

 うららはため息をついたあと、ちょっと自嘲気味に笑った。

 連絡先を知りたいと渚さんから言われ、考えなしに交換してしまった。もしかしたら、彼女がいるかもしれない。あとで不安になって確かめる気になったのだと言う。

「渚さん、彼女と別れたとかじゃなくて、最初からいなかったって言うんですよ。あー、真樹がうそついたんだって、今になって気づいたんです」

 渚さんへの思いを断ち切って過ごしてきたこの数年はなんだったのだろう。そう思ってるみたいに、うららは情けない顔をする。

「どうしてそんなうそを?」
「真樹も渚さんが好きだったんじゃないかな。実際、告白したみたいだし」
「渚さんから聞いたの?」
「はい。真樹とはなんでもないからって言われました。真樹と付き合ってるって、私が勘違いしてると思ったのかも」
「うららちゃん……」

 さまざまな思惑のすれ違いで、うららはずっと傷ついてきた。そう思うと胸が痛むが、彼女は沙代子の鎮痛な面持ちに気づいて、わざとらしく笑顔を作る。

「大丈夫ですよ、沙代子さん。真樹とは最近、あんまり連絡取ってないし、連絡あってももう過去のことだから、今さら蒸し返したりもしたくないし」
「それならいいけど」
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