失くしたあなたの物語、ここにあります
「ここに、女の子を描いた絵があるの」
「あ、うん。知ってるよ。銀一さんが消さずにそのままにしておいて欲しいって言ってたから。その絵がどうかした?」
「これね、私が描いたの」
「えっ、そうなんだ? 葵さんの絵だったんだ」
「うん。母を描いたの、私が」
沙代子の吐き出したい何かを受け止めようとするみたいに、天草さんは無言でうなずく。
「私が小学生のとき、母はいつもおしゃれして仕事に出かけてた。沙代子ちゃんのお母さんは美人だね、モデルみたいにおしゃれだねってお友だちにも言われて、うれしかったの。だから、お母さんまだかなって、パートから帰ってくるのを楽しみにしながら、お母さんの絵を描いたの」
「うん」
「まさか、お父さん以外の男の人に会いに行ってたなんて思わないよね?」
声が震える。悔しいのか、悲しいのかわからない感情が込み上げる。
「葵さん……」
情けない表情の彼から目をそらし、目尻をぬぐう。涙を見せたくない。弱味も。彼を困らせたくない。その思いがそうさせる。
「母と院長の関係が父に知られて、母はパートをやめたの。病院でも、ちょっとしたうわさになってたみたい」
それは大人になってから知った話だけれど。
「父は母を許したけど、母はダメだったみたい。ごめんなさいって、いつも父に謝ってた。そんな生活に耐えられなくてずっと泣いてる母を、父はなぐさめてた」
「だから、離婚されなかったんだね」
沙代子は首を横に振る。
「離婚しなかったのは、お腹の中に悠馬がいたから。父は悠馬がはたちになるまでは離婚しないって条件をつけて、母を家から出したの」
「あ、うん。知ってるよ。銀一さんが消さずにそのままにしておいて欲しいって言ってたから。その絵がどうかした?」
「これね、私が描いたの」
「えっ、そうなんだ? 葵さんの絵だったんだ」
「うん。母を描いたの、私が」
沙代子の吐き出したい何かを受け止めようとするみたいに、天草さんは無言でうなずく。
「私が小学生のとき、母はいつもおしゃれして仕事に出かけてた。沙代子ちゃんのお母さんは美人だね、モデルみたいにおしゃれだねってお友だちにも言われて、うれしかったの。だから、お母さんまだかなって、パートから帰ってくるのを楽しみにしながら、お母さんの絵を描いたの」
「うん」
「まさか、お父さん以外の男の人に会いに行ってたなんて思わないよね?」
声が震える。悔しいのか、悲しいのかわからない感情が込み上げる。
「葵さん……」
情けない表情の彼から目をそらし、目尻をぬぐう。涙を見せたくない。弱味も。彼を困らせたくない。その思いがそうさせる。
「母と院長の関係が父に知られて、母はパートをやめたの。病院でも、ちょっとしたうわさになってたみたい」
それは大人になってから知った話だけれど。
「父は母を許したけど、母はダメだったみたい。ごめんなさいって、いつも父に謝ってた。そんな生活に耐えられなくてずっと泣いてる母を、父はなぐさめてた」
「だから、離婚されなかったんだね」
沙代子は首を横に振る。
「離婚しなかったのは、お腹の中に悠馬がいたから。父は悠馬がはたちになるまでは離婚しないって条件をつけて、母を家から出したの」