失くしたあなたの物語、ここにあります
「だったら、ローズヒップとザクロのソーダ割りはどう? お昼まだなら、サンドイッチもあるよ」

 サンドイッチはあいかわらずのまかないだろう。時々彼は、クオリティーの高いまかないを沙代子にごちそうしてくれる。

「うん。天草さんにおまかせする」
「わかった。ちょっと待ってて」

 そう言うと、天草さんはキッチンへ入っていく。すぐに沙代子は悠馬に視線を移す。彼は本棚をじっと見つめている。

「探してる本、ある?」

 沙代子はそう尋ねた。

 まろう堂にある本たちは誰かを待ってる。そのうわさ話を、沙代子はわりと真面目に信じていた。だからこそ、悠馬をここへ連れてきた。

「ない。ずっと見てるけど、たぶんない」

 悠馬の欲する本が必ずあると信じていただけに、沙代子は驚いた。

「ないの? タイトルがわかってるなら、天草さんに探してもらえるよ」
「……探してもらおうと思ったけど、ないならそれでもいいから」

 まるで、縁のないものをわざわざ見つける必要はないと思ってるようだ。

「でも、見つけたいんだよね?」

 だから、彼は沙代子に告白したんじゃないのか。探してる本があると。

 黙り込む悠馬を見守っていると、天草さんがキッチンから顔を出す。

「はい。ローストビーフのサンドイッチに、悠馬くんはミントのソーダ、葵さんはローズヒップのソーダ。ゆっくり食べていって」
「ありがとう。悠馬、すごく美味しそう。いただきましょう?」
< 164 / 211 >

この作品をシェア

pagetop