失くしたあなたの物語、ここにあります
 そう声をかけても、悠馬は無言でうなずくだけだった。困っていると、天草さんがノートパソコンをカウンターの上に移動させる。

「探すよ。なんていうタイトル?」
「無色の終夜」

 天草さんが尋ねると、意外にも、悠馬はすんなりと口を開いた。彼をずいぶん信頼してるみたいだ。

「無色の……どっかで聞いたことあるかも」

 沙代子が言うと、天草さんもキーボードを叩きながらうなずく。

「ちょっと前に発売されたベストセラー作品じゃないかな。……あ、ああ、あった。2年前だね」
「あるのっ?」

 やっぱり。悠馬を待ってくれていたのだと、沙代子は内心喜んだ。

「あ、待って。ごめん。今は店にないみたいだ。倉庫にあるはず」
「倉庫って、天草農園の?」

 たしか、前にも本棚に入りきらない本は全部、実家に置いてあると聞いていた。

「そう。今日は商工会の会長さんと約束があってさ、明日もほかの店主さんとの集まりがあるから、週末に探してみるよ。それでもいいかな?」
「忙しいのに、ごめんなさい。悠馬、どうする?」
「急いでないから、いつでもいい」

 ぽつりとつぶやくと、悠馬はあきらめにも似た表情で、まぶたを伏せた。
< 165 / 211 >

この作品をシェア

pagetop