失くしたあなたの物語、ここにあります
***
「無色の終夜、あったよ」
天草さんがハードカバーの単行本を持って天草農園の販売所に姿を見せたのは、店が閉まったあとの夕刻のことだった。
「もう探してくれたの? 一緒に探そうと思ってたのに」
閉店準備を終え、あとは販売所に鍵をかけて帰るだけのところだった沙代子は驚いてそう言う。
「リスト順に管理してるからさ、見つけるのは簡単なんだよ。それより、なかなかこっちに来れなくて悪かったよ」
朝から農園の手伝いで忙しくしていたのに、いつの間に倉庫へ行っていたのだろう。週に一度しか休みがない上、最近は輪をかけて、秋祭りに向けた準備で忙しそうだ。細身の彼のどこにそんなバイタリティがあるのかと感心してしまう。
「ううん。悠馬も急いでないって言ってたから大丈夫」
「何か事情があるのかな?」
不意に、心配そうに彼は言う。
「事情って?」
「この本、見つかってほしいような、そうじゃないような感じだったからさ」
「天草さんもそう思った? 私もあんまり聞かないようにしてるけど、何か思い入れのある本なんじゃないかな?」
悠馬は母もあきれるほどの読書家だ。自宅アパートには本が山積みになっているし、その中でもお気に入りの本は本棚にきちんと片付けていて、家族にも触らせない徹底ぶりだ。
「葵さんは心あたりない?」
「2年前って言ったら、私は一人暮らししてて、悠馬とはほとんど会ってなかったし」
「そっか。でもさ、思い入れがあるのは間違いないと思うよ。2年前に発売された本をわざわざ探してるんだからね。本屋に行けば、普通に買えるのに」
天草さんの指摘に、沙代子はあっと驚いた。そんな簡単なことに気づけてなかった。
「じゃあ、悠馬が欲しいのは、古本の無色の終夜?」
「それも、まろう堂にある古本」
「無色の終夜、あったよ」
天草さんがハードカバーの単行本を持って天草農園の販売所に姿を見せたのは、店が閉まったあとの夕刻のことだった。
「もう探してくれたの? 一緒に探そうと思ってたのに」
閉店準備を終え、あとは販売所に鍵をかけて帰るだけのところだった沙代子は驚いてそう言う。
「リスト順に管理してるからさ、見つけるのは簡単なんだよ。それより、なかなかこっちに来れなくて悪かったよ」
朝から農園の手伝いで忙しくしていたのに、いつの間に倉庫へ行っていたのだろう。週に一度しか休みがない上、最近は輪をかけて、秋祭りに向けた準備で忙しそうだ。細身の彼のどこにそんなバイタリティがあるのかと感心してしまう。
「ううん。悠馬も急いでないって言ってたから大丈夫」
「何か事情があるのかな?」
不意に、心配そうに彼は言う。
「事情って?」
「この本、見つかってほしいような、そうじゃないような感じだったからさ」
「天草さんもそう思った? 私もあんまり聞かないようにしてるけど、何か思い入れのある本なんじゃないかな?」
悠馬は母もあきれるほどの読書家だ。自宅アパートには本が山積みになっているし、その中でもお気に入りの本は本棚にきちんと片付けていて、家族にも触らせない徹底ぶりだ。
「葵さんは心あたりない?」
「2年前って言ったら、私は一人暮らししてて、悠馬とはほとんど会ってなかったし」
「そっか。でもさ、思い入れがあるのは間違いないと思うよ。2年前に発売された本をわざわざ探してるんだからね。本屋に行けば、普通に買えるのに」
天草さんの指摘に、沙代子はあっと驚いた。そんな簡単なことに気づけてなかった。
「じゃあ、悠馬が欲しいのは、古本の無色の終夜?」
「それも、まろう堂にある古本」