失くしたあなたの物語、ここにあります
 悠馬が毎日のようにまろう堂へ通っていた目的は古本だったのだろう。

「2年前なら、まほろば書房にあった本だよね」

 当時、悠馬は中学2年生。彼がまほろば書房を訪ね、父にはじめて会った年だ。そのとき、悠馬と父の間に何かあったのだろうか。

「何か聞いてる?」

 眉をひそめた沙代子に、彼は探るように聞いてくる。

「あっ、ううん。私たち、年が離れてるから、なんでも話せるような関係じゃないの」

 そう言うと、彼は意外そうな表情をした。

「悠馬くんは自慢のお姉さんに思ってるみたいだったけどね」
「えー、うそ。おっちょこちょいで目が離せないって思われてると思ってた」
「それもありそうだ」

 天草さんはくすくす笑う。

「あ、ひどいっ」
「葵さんが自分で言ったんだよ」

 おかしそうに笑う彼を見るのは久しぶりだ。やっぱり、彼には笑顔が似合う。いつでもずっと笑っていてもらいたいと思う。

「本、今日持って帰る?」
「どうしようかな。……悠馬に直接渡してもらった方がいいかも」
「わかった。まろう堂に置いておくから、都合のいいときに取りに来てって伝えておいてよ」
「うん」

 沙代子は早速、エプロンのポケットに入れていたスマートフォンを取り出す。

「あ、悠馬からメール来てる」
「何かあった?」

 沙代子は急いでメールを開く。

「えっ、帰るって。……もう電車に乗っちゃったみたい」
「そうなんだ。しまったね。もっとはやく渡してあげられたらよかった」

 申し訳なさそうにする彼に、沙代子は首を振る。

「たぶん、この本に会うのが怖かったのかも」
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