失くしたあなたの物語、ここにあります
「見たかったら、抜けてもいいよ。練り歩きがやってる時間はお客さんも少ないだろうし。こっちはひとりでなんとかするからさ」
「えっ、いいよ。無理しないで。ずっと働いてるじゃない」

 夜店の準備は朝から天草さんひとりでやっていて、沙代子はあとから合流したのだ。彼がタフなのは前から気づいていたけれど、それにしても働きすぎだと思う。

「大丈夫だよ。祭りのあとの月曜日は城下町全体が臨時休業になるから、のんびりできるしね」

 あっけらかんと彼は言う。

「じゃあ、連休?」
「そう。久しぶりに遠出ができるかもね」
「なーに、それ。のんびり休むんじゃないの?」

 沙代子はくすくす笑うが、わりと真面目な表情でこちらを見ている天草さんに気づいて、ハッとする。

 もしかしたら、これはデートのお誘いかもしれない。沙代子もまた、お祭りの手伝いで疲れてるだろうからと連休をもらっていたんだった。

「それにしても、ハーブティーはアイスがよく出るね」

 あからさまに話題を変えて、気まずさを隠す。それに気づいたのか、天草さんは苦笑いするにとどめて言う。

「去年もアイスがよく出たよ。でも、寒いよね。ホット淹れるよ。葵さんはなに飲む?」
「どうしようかなぁ。さっぱりした味が飲みたいかも」

 そう話しながら、沙代子は夜店に近づいてくる少年に気づいて、「あれっ?」と声をあげた。

「悠馬じゃない。いつ来たの?」
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