失くしたあなたの物語、ここにあります
 夏休み以来、久しぶりの再会だ。よほどのことがなければ、沙代子から彼に連絡はしない。どうしているかと気になっていたが、元気そうだ。

「いま、来た」

 悠馬はあいかわらずの様子で淡々と言う。

「お祭り、見に来たの?」
「姉さんちに泊まりたい」

 沙代子の質問には答えず、悠馬はガラスケースを指差す。

「フィナンシェください」

 一方的な態度にはあきれてしまうが、フィナンシェを食べたがるのは悠馬の気づかいだろうとうれしくもなる。

「味はどれにする?」
「プレーンでいい」
「飲みものは?」
「さっき、ジュース買ったから」

 リュックのサイドポケットからペットボトルが顔を出している。

「泊まって行くのはかまわないけど、帰りが遅くなるから、家の鍵、渡しておくね」

 沙代子がフィナンシェとキーケースを差し出すと、悠馬は無言で小さく頭をさげて、両手でそれらを受け取った。

「葵さん、悠馬くんとお祭り見ておいでよ。もうすぐ練り歩きが始まるし」

 立ち去ろうとする悠馬を見て、すかさず天草さんがそう言う。

「でも……」
「こっちは大丈夫だからさ」
「あ、どうしよう」

 言っている間にも、悠馬がどんどん鶴川城へ向かう人々の中へまぎれていってしまう。このままでは見失ってしまうだろう。

「忙しくなるようだったら、呼んでね」

 笑顔でうなずく天草さんにそう言いおいて、沙代子はエプロンをはずすと悠馬を追いかけた。

 悠馬はきっと、お祭りを見に来たんじゃない。そんな気がして、心配だったのだ。

「悠馬っ、何かあった?」
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