恋の微熱に溺れて…
「京香さんにお願いがあるんです。俺、京香さんの手作りチョコが食べたいです」

そうきたか。ようやく話の意図が読めた。バレンタインの話を振ってきたのはどうやらそういうことみたいだ。

「京香さんが嫌だったら大丈夫です。でももし京香さんさえ良ければ、手作りチョコをお願いしたいです…」

相変わらず甘えるのが上手だ。子犬みたいな目でお願いされたら断れない。
それを分かっていて、わざとやっているに違いない。そしてわざとだと分かっていても、この目でお願いされてしまうと、断れない自分がいた。

「…分かった。慧くんのために手作りチョコ、頑張って作ってみるよ」

慧くんの手前、そうは言ったものの、内心はとても焦っている私…。
窮地に立たされるとはこのことだ。私の頭の中は今、混乱している。

「楽しみにしてます。それでは俺はこの辺で…」

慧くんはそう言って、その場を去った。自分が乗る電車の路線へと向かうために。
私はその場に一人、立ち尽くしていた。バレンタインまで時間がない。それなのに手作りをするという約束をしてしまった。
途方に暮れそうになったその時、ある閃きが頭の中に思い浮かんだ。もしかしたらどうにかなるかもしれない。
一筋の希望を抱きながら、その人に連絡をした。良い返事が返ってくることを願いながら、私も自宅へと帰宅するために自分が乗る電車の路線へと向かった。


           *


『まさか京香がバレンタインのチョコを手作りする日が訪れるとはね…』

私が困った時に頼れる相手は、一人しかいなかった。

「だって彼氏にお願いされたら断れなくて。お願い、優希。力を貸して…!」

頼みの綱は友人だけだ。優希なら恋愛経験が豊富なので、手作りチョコを作ったことがあるはず…。

『いいよ。私も彼氏にチョコを作りたいなって思ってたところだから』

どこも同じみたいだ。バレンタインという季節らしいなと思った。

「ありがとう。さすが優希。頼りになります」

『こういう時だけ頼りにされてるような気がするけどね?』

そんなことはないが、困った時につい頼ってしまうことは否定できない。
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