恋の微熱に溺れて…
「そうだよね。ごめんね。でもよかった。これで心置きなく義姉弟(きょうだい)になれるね」

女性の一言で嫌な予感が的中したことが分かった。きっとこの二人は昔、お付き合いしていたのだと…。

「よくそんなことが言えますね。俺を裏切っておいて…」

慧くんはこの女性から何かされたのであろう。そしてまだその傷は癒えていないみたいだ。

「それは本当にごめんなさい。でも私は慧くんと義姉弟になりたいの。親戚になるから…」

先程からこの女性は一方的に自分の気持ちをぶつけていて。一切、慧くんの気持ちを考えていない。

「兄貴は知ってるんですか?俺達のこと…」

今の慧くんの言葉で確信を持てた。間違いなくこの二人がお付き合いしていたということが…。

「知らないよ。慧くんとは普通の義理の姉弟になりたいから、彼には内緒にしてる…」

つまりお兄さんには昔、付き合っていたことがバレたくないということだ。
それはあまりにも慧くんには酷な話で。話を聞いている私の方が辛くなった。

「ちゃんと両家の挨拶には顔を出すつもりでいます。だから安心してください。兄貴の面子を立てるためにもちゃんとやるべきことはやりますので」

慧くんはずっと一人で苦しんでいた。この女性の身勝手な言動により…。
つまり慧くんは今でもこの女性のことを……。
今まで私と共に過ごした時間は本物ではなく、偽物だった。
同棲しようと言ってくれたけれど、本当は心の中で違う相手を思い浮かべていたのかもしれない。
知りたくなかった真実を知ってしまい、私の心はボロボロだ。

「そんな上辺だけな関係ではなく、ちゃんと慧くんと家族になりたいの。だからこれまでの(わだかま)りをなくしたい。ダメかな?」

慧くんはどう答えるのだろうか。慧くんの答え次第によって、この先の関係性が変わってしまう。

「俺は必要最低限以外、あなたとは関わりを持ちたくありません。今お付き合いしている大事な女性もいますし。どうか兄貴と幸せに過ごしてください」

慧くんはどこかでまだ過去を引きずっていて。この女性のことが忘れられずにいる。
私に入り込む隙間なんてない。最初から慧くんの心の中に私はいなかった。
事実を知った今、私は耐えきれなくなり、その場を去ることにした。

「京香さん……っ!!!!!」

走り去って行く私を見て、驚いた慧くんが声をかけてきたが、慧くんの声なんて無視して、私はその場を駆け足で去った…。
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