恋の微熱に溺れて…
*
俺は油断していた。ずっと電話に応じなかった自分が悪い。
だからあの人を職場まで来させてしまった。そしてそれを京香さんに見られてしまった。
きっと京香さんは誤解したはず。俺がまだあの人を好きだと勘違いしたに違いない。
俺はかつて京香さんに出会う前に大好きだった女性がいた。
その人の名前は霞美さん。霞美さんは歳上で。同じ高校の先輩だった。
高校二年生の時、霞美さんとは学園祭の実行委員を通じて知り合い、一緒に委員会の業務をしているうちに好きになった。
そして学園祭が無事に終わり、打ち上げの時に俺から霞美さんに告白し、お付き合いすることになった。
人生で初めて好きになった人とお付き合いすることができたので、俺は完全に浮かれていた。
そして高校二年生の冬に俺の初めてを捧げた。霞美さんも初めてだったので、お互いに初めてを捧げた。
初体験を終えた俺は初めてを好きな人と一緒に体験することができて感動した。
この時の俺は好きな人の初めてをもらえた喜びしか分からなくて。京香さんとするまで身体の相性があることを知らなかった。
今思えば霞美さんとの初体験は大したことないと分かる。京香さんこそが特別なんだと気づく。
まだ何も知らない頃の俺は、初めて好きな人とお付き合いできたことに浮かれていた。
霞美さんとのお付き合いは順調で。この人と結婚するのだとばかり思っていた。
でもそれはある日突然、訪れた。霞美さんから唐突に、「別れてほしい…」と告げられた。
その時の俺はとてもショックを受けたが、好きな人の気持ちを想って別れを受け入れた。
暫くの間、失恋のショックに立ち直れそうになかったが、時間と共に霞美さんのことは忘れ、別の人とお付き合いをしたりもした。
それでも心の傷は上手く癒えることはなくて。付き合った人全員に、「誰か他に好きな人でもいるの?」と言われた。
そこで初めて自分がまだ忘れられていないことに気づき、まだ霞美さんに囚われている自分に嫌気が差した。