恋の微熱に溺れて…

16度:過去と未来と誓いの約束…

走ってその場を逃げ出したはいいものの、この先彼とどう向き合ったらいいのか分からない。
このままお付き合いを続けていてもいいのだろうか。私と別れたところで慧くんの想いが報われるわけではない。
でも彼の想いを知ってしまった以上、これまで通りに接することはできない。
向き合いたくても向き合えない。ちゃんと彼と向き合った瞬間、私と彼の関係はここで終わってしまう。
それが怖い。彼と別れたくない。今の私には現実逃避をする以外、手段がなかった。
彼との将来についてたくさん考えた。同棲や結婚…など。これから楽しみなことで溢れていたのに。
こんなにも呆気なく終わってしまうなんて思ってもみなかった。
もうお先真っ暗だ…なんて途方に暮れていたら、慧くんから電話がかかってきた。
どうしよう…。電話に出たいけど出たくない。
でもこのまま慧くんからの着信を無視するわけにはいかない。頭では分かっていても、心が追いつかない。
どうしたらいいのか分からず、焦って間違えて応答ボタンを押してしまった。

『もしもし…京香さん……っ、』

電話越しの慧くんの声は息が上がっている。どうやら必死に私を追いかけて探してくれているみたいだ。

『どこにいますか?今から俺がそっちに向かいます…』

ってきりまだあの女性と居るのだとばかり思っていたので、追いかけてきてくれたことにまず安堵した。

「電車に乗って自宅の最寄駅で降りて、もうすぐ自宅に着くところです」

気がついたら自宅近辺にいた。今日はどちらにせよ慧くん家に行く気分ではなかったので、まっすぐ自宅に帰宅していたと思う。

『分かりました。自宅で待っててください。今からそっちへ向かうので』

そう言って慧くんは電話を切った。私は言われるがままに自宅へと帰り、彼が来るのを待った。
彼を待つこと数十分後、玄関のインターフォンのチャイムが鳴った。

「はい…」

カメラには彼の姿が写っていた。必死にここまで追いかけてきた彼の姿が…。

『慧です。京香さん、開けてください』

ここまで追いかけてきてくれた彼を追い返すなんてことはしない。
なので玄関の鍵を開錠した。

「どうぞ。中に入って」

私が玄関の扉を開けると、彼は「お邪魔します」と言ってから家の中へ入ってきた。
そういえば今まで慧くんが家へ来ることはなかった。一応、自宅の住所は何かあった時のために伝えていたが、ずっと慧くん家で過ごしていたことにこのタイミングで気づいた。

「京香さん、先程のことについて俺から説明させてください」

いきなり本題に触れてきた。私は内心焦っている。現実に直面しなくてはならないから。

「分かった。その前にお茶だけは出させて」

一旦、逃げた。それぐらいの猶予は欲しいと思った。
冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップに麦茶を注いだ。

「はい、お茶をどうぞ」

私がお茶を差し出すと、慧くんは「ありがとうございます」と言って、お茶を飲んだ。
一呼吸間を置いてから話し始めた。
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