激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 神は穢れを嫌う。罪を犯した自分はやめるべきだし、好きだった仕事をやめる、それくらいの罰は受けるべきだ。
 絵麻はそう言い、退職が決まった。この夏祭りが彼女の最後の仕事だった。

 改心したならもう自分で心を清めたってことでしょうに、と紗苗は彼女の退職を残念がった。

 千暁と宮司は今、直会(なおらい)に参加している。神饌のお下がりを氏子たちといただく会なのだが、ただの宴会と化している。

 千暁は夏祭りの前夜から斎戒(さいかい)に入っていた。
 斎戒は儀式のために肉食を避けたり身を清めたりするもので、その期間は穢れや不浄に触れてはならないとされている。かつては一カ月あったものが簡略化され、一晩で良くなっていた。
 直会をもって儀式を終える下斎(げさい)となる。

 外から注ぐ明るい光に導かれるようにして外に出ると、そこには木刀を振るう千暁がいた。

 夜遅い時間だが、彼は神主の装束を身に着けていた。
 紫緒に気づいた千暁は、木刀を振るのをやめて彼女を見る。

 千暁の穏やかな笑みに、紫緒はどきっとした。
 いつもと同じ笑みのはずなのに、どこか艶めいて見える。

「お疲れ様です。直会は終わったんですか?」
「少し抜け出してきました。鍛錬(これ)をやらないと落ち着かないので」
 すごいな、と紫緒は素直に思う。継続は力なりと言うが実行できる人がどれだけいるだろう。

「御朱印のパフォーマンス、素敵でした。アイディアをありがとうございます。サイトでダウンロードできるようにしたらアクセスが伸びています」
「良かったです」

 千暁が電子化に力を入れていると聞いたから提案したら採用してもらえたのだ。

「姉は退職したら神職を目指すようです。この神社が好きだから、と」
「彩陽さんにぴったりだと思います」
 神主装束の彩陽はきっと凛々しいだろうな、と紫緒は思った。
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