🍞 ブレッド 🍞 ~フィレンツェとニューヨークとパンと恋と夢と未来の物語~【新編集版】
「これはなんだい?」
見たこともないせいか、不思議そうな表情を浮かべていた。
「だし巻き玉子です」
「Japanese Omelete?」
また不思議そうに黄色い塊を見つめたので、「ふわっとしてて美味しいですよ」と促すと、ルチオが口に入れた。
すると噛んだ途端、表情が変わって笑みが浮かんだ。
「柔らかくて、ふわっとしてて、ジュワッとしてて」
それ以上何かを言うのがもどかしいように、もう一つ口に入れた。
「これならいくつでも食べられそうだね」
そう言って次々に口に入れた。
「もっと作りましょうか」
しかしルチオは右手を立てて横に振った。
もう十分という感じだったのでミネラルウォーターを取りに行ってグラスに注いで渡すと、ゴクゴクと何口か飲んだ。
「こんなおいしいもの、どこで覚えたんだい?」
弦の意外な才能に感心しているようだった。
「ニューヨークに来る前に母親から教わりました」
日本ではきちんと出汁を取って作ることを説明した。
「お母さんは料理上手なんだろうね」
弦は思い切り頷いた。
「母が作る料理はどれも美味しいです」
胸を張ると笑みを返してきたが、それがさっきまでのやつれた感じではなかったので本題を切り出した。
「ところで、バイトではなくフルタイムで働きます。そしてパン職人になります」
するとルチオの表情が一変した。
「それはダメだ。ユズルはハーバードへ行かなければならない。そして会社を継がなければならない。こんなところで寄り道をしてはいけない」
「でも」
「でも、じゃない。自分の将来を大事にしなさい」
ルチオはまったく聞く気がないようだった。それでも弦は一歩も引かなかった。
「もう決めたことなんです」
しかしルチオが同意することはなかった。
「絶対に駄目だ。弦の将来を潰すわけにはいかない。それに日本の両親からユズルを奪うわけにはいかない」
断固とした口調だった。
それでも言い返そうとすると、ルチオは手で制して、「疲れたから休みたい」と背を向けて部屋から出て行った。
喜んでくれると思ったのに……、
全身から力が抜けてしまった弦は帰り道をとぼとぼと歩くしかなかった。
すれ違う若い女性たちから華やかな笑い声が聞こえてきたが、それが自分の住む世界のものだとはまったく思えなかった。
見たこともないせいか、不思議そうな表情を浮かべていた。
「だし巻き玉子です」
「Japanese Omelete?」
また不思議そうに黄色い塊を見つめたので、「ふわっとしてて美味しいですよ」と促すと、ルチオが口に入れた。
すると噛んだ途端、表情が変わって笑みが浮かんだ。
「柔らかくて、ふわっとしてて、ジュワッとしてて」
それ以上何かを言うのがもどかしいように、もう一つ口に入れた。
「これならいくつでも食べられそうだね」
そう言って次々に口に入れた。
「もっと作りましょうか」
しかしルチオは右手を立てて横に振った。
もう十分という感じだったのでミネラルウォーターを取りに行ってグラスに注いで渡すと、ゴクゴクと何口か飲んだ。
「こんなおいしいもの、どこで覚えたんだい?」
弦の意外な才能に感心しているようだった。
「ニューヨークに来る前に母親から教わりました」
日本ではきちんと出汁を取って作ることを説明した。
「お母さんは料理上手なんだろうね」
弦は思い切り頷いた。
「母が作る料理はどれも美味しいです」
胸を張ると笑みを返してきたが、それがさっきまでのやつれた感じではなかったので本題を切り出した。
「ところで、バイトではなくフルタイムで働きます。そしてパン職人になります」
するとルチオの表情が一変した。
「それはダメだ。ユズルはハーバードへ行かなければならない。そして会社を継がなければならない。こんなところで寄り道をしてはいけない」
「でも」
「でも、じゃない。自分の将来を大事にしなさい」
ルチオはまったく聞く気がないようだった。それでも弦は一歩も引かなかった。
「もう決めたことなんです」
しかしルチオが同意することはなかった。
「絶対に駄目だ。弦の将来を潰すわけにはいかない。それに日本の両親からユズルを奪うわけにはいかない」
断固とした口調だった。
それでも言い返そうとすると、ルチオは手で制して、「疲れたから休みたい」と背を向けて部屋から出て行った。
喜んでくれると思ったのに……、
全身から力が抜けてしまった弦は帰り道をとぼとぼと歩くしかなかった。
すれ違う若い女性たちから華やかな笑い声が聞こえてきたが、それが自分の住む世界のものだとはまったく思えなかった。