このドクターに恋してる
 おかあさんは郁巳さんの呼びかけを無視して、三つの封筒をテーブルに置いてマンションを出て行ってしまった。
 なに、あの人……。 
 唖然とする私の横で郁巳さんは封筒を手に取った。

「持ち帰るんですか?」
「ここに置いておくわけにはいかないから。ごめん、陽菜。嫌な思いをさせちゃって」  

 たしかに個人情報が記載されている物を放置できない。
 郁巳さんが持ち帰らないといけない状況なのは理解できた。
 でも……なんだか嫌だった。
 もしかしたら、中を見て、この人と結婚したいと思うのではないかと……。
 郁巳さんを信じているが、不安が募る。
 無理矢理お見合いをさせられるかもしれないし……。

「お見合い、しないですよね?」
「もちろんしないよ」
「それ、どうするんですか?」
「父親に話して、返してもらうようにする」
「そう、ですか……」

 私が不安そうにしているのがわかったのだろう。
 部屋に入ると郁巳さんは封筒を仕事用のカバンにしまって、私を抱きしめた。

「心配しないで。俺が好きなのは陽菜だし、ずっと一緒にいたいのも陽菜だけだから」
「私もです」

 この日の夜も郁巳さんに抱かれたが、不安は全部消えなかった。
 浅葉家にふさわしくないと言われた言葉が、ずっと心の奥で引っ掛かっていた。
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