このドクターに恋してる
「光一に継がせるつもりはない」

 思いも寄らないひと言を聞き、私は目を見張った。

「少し前、妻に光一は院長になれる人間ではないと言ったんだ。それで、妻は焦って郁巳を追い出そうとしたようだ」
「追い出そうと……あ、それで縁談を持ちかけたのでしょうか?」
「そう。縁談相手はみんな、どこかの病院の娘さんだ」
「医師を続けられるのならどこの病院でもいいだろうと考えたらしくてね」
「あー、なるほど。郁巳さんがここからいなくなれば、光一先生が院長になるしかないということですね」

 院長は頷いて、コーヒーカップを持った。私もぬるくなったコーヒーで喉を潤す。
 光一先生とは関わりがないし、話をしたこともなかった。でも、よくない噂は耳に入ってきていた。
 判断ミスがたまにあるらしく、指摘されると言い訳して、自分の間違いを認めないとか。
 偉そうにして、面倒なことはやりたがらないとか。
 それでも院長になるのは光一先生だから仕方ないと諦めた声を聞いたことがあった。
 偉そうにするのは、自分は院長になる人間だからと思っているからかもしれない。
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