このドクターに恋してる
「光一先生はやっぱり自分が院長になるものだと思っているんですよね?」
「たぶんね。妻が子どもの頃から言い聞かせているからね。でも、私は一度も光一に言ったことはない」
「郁巳さんには?」
「郁巳にも言っていない。余計なプレッシャーを与えるつもりはないし、今は医師としての仕事をしっかりしてもらいたいからね。でも、そろそろ伝えないといけない時期なのかなとは思っている。今回のように郁巳を追い出そうと勝手な行動をされるとね……」

 院長はちょっと疲れた顔を見せた。
 奥さんがあれこれと縁談を持ち込んできたことに対して、今後どうしたらいいのかと頭を悩ませているようだ。
 今が郁巳さんに伝えるときだと思っても、いろいろ考えると難しいのかもしれない。
 私が院長の気持ちを郁巳さんに伝えてもいいが、院長が直接言うほうが絶対にいい。
 院長に頑張ってくださいと言おうとしたとき、院長室のドアがノックされた。
 院長が「どうぞ」と応えると、郁巳さんが入ってきた。

「郁巳……」
「郁巳さん!」

 私と院長は驚きの声をあげる。
 郁巳さんは苛立った様子で、中に入ってきた。

「院長、どうして陽菜をこんなところに連れてきたんですか?」
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