このドクターに恋してる
 その後、光一先生と院長の奥さんは院長から厳しく注意されたと聞いた。
 私には絶対に接触しないこと、郁巳さんに文句を言わないことを約束させられたらしい。

 そして、それから一か月過ぎた平日、私たちはカフェリリースマイルへ向かった。
 歩くと汗ばむ陽気の中、少しでも太陽の光を遮ろうと葉桜の下を歩く。
 緊張しているのか、真面目な顔で進んでいく郁巳さんの手を握った。
 「ん?」と小首を傾げる郁巳さんに私は微笑んだ。

「緊張しています?」
「いや、していないよ」
「ほんとに?」
「ほんとだよ」

 緊張しているように見えたのは、私の気のせいだったようだ。
 今の郁巳さんは落ち着きがあって、頼もしく見えた。
 郁巳さんに任せておけば、安心できそうだ。

 カフェの休業の札がかけられたドアを開けると、母が出迎える。

「いらっしゃい。こちらに来てもらって、ごめんなさいね」
「いいえ。お休みの日にお時間を作っていただき、ありがとうございます」

 母と兄にはお互いの気持ちが固まったときに報告したが、挨拶するまで少し時間が掛かってしまった。
 カフェの休業日と郁巳さんの休みが合わなかったのが原因だった。
 今日郁巳さんは代休で、私は有休だ。
 実家に行く予定にしていたが、兄がパンケーキを振る舞いたいと希望したのでカフェに来たのだった。
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