このドクターに恋してる
 ドアを開けた瞬間から、バターの香りが漂ってきていた。
 郁巳さんが「美味しそうな匂いがする」と私に耳打ちする。

「そちらにお座りになって」
「はい、ありがとうございます」

 私たちが指定された席で待っている間、母はコーヒーを淹れた。 
 母が四つのカップをテーブルに置いて、私たちの前に座った。

「いただきます」

 郁巳さんと私がコーヒーに口をつけていると、パンケーキを持った兄が現れた。

「お待たせ! あたたかいうちに食べてください」
「ありがとうございます」

 郁巳さんと私はほぼ同時にパンケーキをカットした。私たちはひと口食べて、フォークとナイフを置く。
 郁巳さんが姿勢を正した。

「とても美味しいです……本日はお忙しい中、お時間を割いてくださり、このようなおもてなしまでしていただき、ありがとうございます。陽菜さんからお話を聞いていると思いますが、私たちは結婚の意思が固まりました。これからの人生、二人で寄り添っていきたいと考えています。どうか、陽菜さんとの結婚をお許しくださいますよう、お願いいたします」

 郁巳さんが頭を下げるのに合わせて、私も頭を下げる。
 
「もちろん、許します。二人とも顔を上げて」

 母に言われて、私たちは顔を上げた。母が私たちを穏やかな表情で見つめた。

「二人が結婚してくれるなんて、嬉しいわ」
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