プレイボーイと恋の〝賭け〟引き
 やはり柊仁に会おうとしたのが間違いだったと莉都花は早々に帰る準備を始める。

「すみません。お会計をお願いします」

 哲也に精算を頼むと、彼は驚いた顔で莉都花に問いかけてくる。

「あれ、もう帰るの? このあと用事でもあった?」
「いえ、特に用事はないんですけど……」

 莉都花は濁して答える。確かに一杯だけで帰るのは早いのかもしれないが、目的が果たせないなら、ここにいてもしかたがない。「すみません」と言って、帰る意を示す。

 しかし、哲也は「ちょっと待ってて」と言って、すぐには精算に応じてくれなかった。

 そして、なぜか莉都花の前に頼んでいないカクテルを置く。

「はい」
「え?」
「それはおごりだから、その一杯分くらいはいてくれると嬉しいな。せっかく来てくれたのに、最初の一杯だけじゃ寂しいでしょ。ね?」

 莉都花はうっと言葉に詰まる。ここまでされると帰れない。莉都花がここで帰れば、このカクテルは無駄になってしまうだろう。

 それに哲也自身の気持ちも嬉しかったから、この一杯だけはしかたがないと、莉都花はもう少しだけこの場に残ることを決めた。

「すみません。じゃあ、いただきます」
「うん、どうぞ」

 再びカクテルを飲みながら、哲也やもう一人のバーテンダーと会話をする。

 時折、柊仁たちの席から楽しそうな声が聞こえてきたが、莉都花は意識的にその声を耳に入れないようにしていた。
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