一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜
第三章 新たなる旅立ち
香の国との親睦会
それから1週間は夢のような時間を香蘭と共に過ごす。
例の媚薬騒動のお陰か、より2人の距離は近くなり、香蘭も僅かながら素を見せてくれるようになった。
晴明も公務以外の仕事を後回しにして、香蘭との時間を大切にした。
そして、何より大事な事。
婚約の儀の際に香蘭を狙った刺客の存在だ。
隠密部隊の隊長、高虎徹(こうこうてつ)が捕らえた刺客は女人だった。
さすがに力尽くで情報を聞き出す事に戸惑い、一旦牢屋に閉じ込めたのだが、そこで刺客は自害する。
自らの命を絶ってまで、隠し通さなければならない重大な任務だったと言う事を意味している。
それがなんなのか…
刺客からはなんの手がかりも見つけ出せず、ただ、これからも香蘭の命は狙われ続けると言う事実だけが残った。
得体の知れない怖さを感じ晴明は足元がぐらつくのを感じた。晴明にとって香蘭は唯一無二の存在であり、例え自分の命を引換にしてでも守りたい大事な存在だ。
後宮と言う名の檻の中に、閉じ込めてしまえたらどんなに安堵出来ただろうか…。
しかし、香蘭との約束を守らなければ男では無い。内心そんな葛藤の日々だったが旅立たせる決心をする。
信頼ある近衛兵を5人選び、自らの隠密である虎鉄も密かに同行させる事にした。それでも不安は拭いきれない。
香蘭本人は全く知らないところで、それほどまでも徹底した警護で固められていたのだ。
そして今朝、一座からの迎えの馬車に乗り、後ろ髪ひかれる思いで別邸を後にする。
旅をする月光一座の日程では、1ヶ月後に一度都に立ち寄る事になっている。それまで晴明とは会えない。
お互いがお互いを心配しつつ、それでも決して声には出さず、笑顔でしばしの別れを成し遂げた。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
月光一座は馬車に揺られあぜ道をずんずんと進んで行く。目指すは暖かな南の町。
そんな旅路だが、嬉しい事が一つあった。
座長が国からのお咎めを受け、服役の為1年間牢屋で過ごす刑が下った。
その為しばらく都で足止めされていたのだが、新しくやって来た座長の従兄弟だという副座長の元、新たな旅が始まりを迎えた。
晴明の命で着いた5人の護衛に守られ、いささか仰々しい旅路ではあるが、8割が女人の一座だからそれはそれで心強い事この上ない。
そして若い護衛達の登場で踊り子達は色めきたった。
前の座長は男女言葉を交わすのさえ硬く禁じていたが、新しい副座長は特に気にする事もない。
良く言えばおおらかで、悪く言えば面倒くさがりな性格だったから、何のお咎めも御法度も無い締まりのない緩い感じの旅となる。
香蘭は馬車に揺られながら道ゆく景色を、ただ見つめていた。
「鈴蘭たら見ない間になんだか綺麗になったわ。座長の一大事にどこに消えていたのよ。」
香蘭の前の席に座る同期の舞姫、春麗(しゅんれい)が話しかけてくる。
「そうでしょうか…。
私はまだまだ子供だと、深く落ち込んでいるところなのですけど…。」
香蘭は元気なく、ため息混じりでそう答える。
「姐様…もしかして既に、都が恋しいのですか?」
香蘭の隣にはいつもと変わらず寧々がいる。
恋しいと、一言でまとめられるような気持ちではなく…まるで魂を抜かれたように気持ちが落ち込んでいる。まだ、1日も経っていないのに…。
「この気持ちが恋しいというものなのかしら…。」
香蘭は自分が自分で分からない状態だ。
ただ、彼の笑顔を思い出すと、堪らず涙が溢れそうになる。
「あの方もきっと、もぬけの殻でございましょうね。」
寧々が小声で高覧に耳打ちをする。
「こう、何もかも捨ててしまえるような情熱的な恋をしたいわ。」
夢見がち乙女の春麗は、夢のまた夢を見ているようだ。
「では春蘭姐様は護衛の中からどうですか?身分も身元もしっかりとした殿方ばかりですよ。」
寧々が馬車の窓から身を乗り出して、前方後方を守るように歩く騎士団員達を見つめる。
「良いわね!この中の誰かが、私をお嫁にもらってくれないかしら。」
春麗だって10ヶ月後にはこの一座から追い出されるのだ。
「春麗姐様ならどなたでも選り取り見取りですよ。お勧めの団員は…。」
寧々は嬉しそうに話し始める。
護衛に着いている兵達は、晴明が自ら選んだ選りすぐりの近衛兵だと聞いている。
香蘭としてみたら、私1人のために何だか申し訳ないと思ってしまったのだが…。
寧々と春麗の話しはこの後小1時間ほど続き、さして興味の無い香蘭は、その話し声を子守唄代わりにうつらうつらと舟を漕ぐ。
例の媚薬騒動のお陰か、より2人の距離は近くなり、香蘭も僅かながら素を見せてくれるようになった。
晴明も公務以外の仕事を後回しにして、香蘭との時間を大切にした。
そして、何より大事な事。
婚約の儀の際に香蘭を狙った刺客の存在だ。
隠密部隊の隊長、高虎徹(こうこうてつ)が捕らえた刺客は女人だった。
さすがに力尽くで情報を聞き出す事に戸惑い、一旦牢屋に閉じ込めたのだが、そこで刺客は自害する。
自らの命を絶ってまで、隠し通さなければならない重大な任務だったと言う事を意味している。
それがなんなのか…
刺客からはなんの手がかりも見つけ出せず、ただ、これからも香蘭の命は狙われ続けると言う事実だけが残った。
得体の知れない怖さを感じ晴明は足元がぐらつくのを感じた。晴明にとって香蘭は唯一無二の存在であり、例え自分の命を引換にしてでも守りたい大事な存在だ。
後宮と言う名の檻の中に、閉じ込めてしまえたらどんなに安堵出来ただろうか…。
しかし、香蘭との約束を守らなければ男では無い。内心そんな葛藤の日々だったが旅立たせる決心をする。
信頼ある近衛兵を5人選び、自らの隠密である虎鉄も密かに同行させる事にした。それでも不安は拭いきれない。
香蘭本人は全く知らないところで、それほどまでも徹底した警護で固められていたのだ。
そして今朝、一座からの迎えの馬車に乗り、後ろ髪ひかれる思いで別邸を後にする。
旅をする月光一座の日程では、1ヶ月後に一度都に立ち寄る事になっている。それまで晴明とは会えない。
お互いがお互いを心配しつつ、それでも決して声には出さず、笑顔でしばしの別れを成し遂げた。
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月光一座は馬車に揺られあぜ道をずんずんと進んで行く。目指すは暖かな南の町。
そんな旅路だが、嬉しい事が一つあった。
座長が国からのお咎めを受け、服役の為1年間牢屋で過ごす刑が下った。
その為しばらく都で足止めされていたのだが、新しくやって来た座長の従兄弟だという副座長の元、新たな旅が始まりを迎えた。
晴明の命で着いた5人の護衛に守られ、いささか仰々しい旅路ではあるが、8割が女人の一座だからそれはそれで心強い事この上ない。
そして若い護衛達の登場で踊り子達は色めきたった。
前の座長は男女言葉を交わすのさえ硬く禁じていたが、新しい副座長は特に気にする事もない。
良く言えばおおらかで、悪く言えば面倒くさがりな性格だったから、何のお咎めも御法度も無い締まりのない緩い感じの旅となる。
香蘭は馬車に揺られながら道ゆく景色を、ただ見つめていた。
「鈴蘭たら見ない間になんだか綺麗になったわ。座長の一大事にどこに消えていたのよ。」
香蘭の前の席に座る同期の舞姫、春麗(しゅんれい)が話しかけてくる。
「そうでしょうか…。
私はまだまだ子供だと、深く落ち込んでいるところなのですけど…。」
香蘭は元気なく、ため息混じりでそう答える。
「姐様…もしかして既に、都が恋しいのですか?」
香蘭の隣にはいつもと変わらず寧々がいる。
恋しいと、一言でまとめられるような気持ちではなく…まるで魂を抜かれたように気持ちが落ち込んでいる。まだ、1日も経っていないのに…。
「この気持ちが恋しいというものなのかしら…。」
香蘭は自分が自分で分からない状態だ。
ただ、彼の笑顔を思い出すと、堪らず涙が溢れそうになる。
「あの方もきっと、もぬけの殻でございましょうね。」
寧々が小声で高覧に耳打ちをする。
「こう、何もかも捨ててしまえるような情熱的な恋をしたいわ。」
夢見がち乙女の春麗は、夢のまた夢を見ているようだ。
「では春蘭姐様は護衛の中からどうですか?身分も身元もしっかりとした殿方ばかりですよ。」
寧々が馬車の窓から身を乗り出して、前方後方を守るように歩く騎士団員達を見つめる。
「良いわね!この中の誰かが、私をお嫁にもらってくれないかしら。」
春麗だって10ヶ月後にはこの一座から追い出されるのだ。
「春麗姐様ならどなたでも選り取り見取りですよ。お勧めの団員は…。」
寧々は嬉しそうに話し始める。
護衛に着いている兵達は、晴明が自ら選んだ選りすぐりの近衛兵だと聞いている。
香蘭としてみたら、私1人のために何だか申し訳ないと思ってしまったのだが…。
寧々と春麗の話しはこの後小1時間ほど続き、さして興味の無い香蘭は、その話し声を子守唄代わりにうつらうつらと舟を漕ぐ。